眠れない夜の散歩道

ベトナム帰りの50代男が綴る東京生活

技能実習生送り出し機関訪問記~その1

ハノイ技能実習生の送り出し機関を視察した。

事務所を訪ね、会社のちょっと偉い人たちとお話したあと、日本語教育センターを訪ねた。事務所はハノイの街なかにあるが、日本語教育センターはそこから車で30分以上走った郊外にある。

案内してくれた方は、「この敷地内は日本です」とおっしゃる。未来の技能実習生たちはこの施設の中で24時間日本式の生活を送っているということらしい。

ハノイの街角の写真
ハノイの街角

彼らは深々とお辞儀をする。女性はお腹のあたりに両手を添えて、男性は両脇に手をおろして。
それが日本人を戯画化した姿であるように思われてならない。特別な場合でなければ日本人があんなに深くおじぎをすることはないし、女性がお腹に両手を当ててお辞儀をするというのも、一部の接客業くらいではないのか?
何十年か前のハリウッド映画に出てくる日本人の姿に重なる。

校舎には様々な掲示がなされており、その中には5Sについてのものもあった。
5Sとは、次の5つのことだ。

・整理(せいり、Sàng lọc)
・整頓(せいとん、Sắp xếp)
・清掃(せいそう、Sạch sẽ)
・清潔(せいけつ、Săn sóc)
・躾(しつけ、Sẵn sàng)

これは何も技能実習生の教育センターだけに見られるものではなく、日本の工場でも海外の日系企業でもふつうに展開されている職場の環境維持活動だ。

ベトナム語でもSから始まる単語を使って強引に5Sにしている。
Sạch sẽは意味からすれば「清潔」に近いのだが、「清掃」を表すベトナム語がdọn dẹp、quét tướcなどでSから始まらないため、Sạch sẽを「清掃」に持っていき、「心をこめて面倒を見る」という意味のSăn sócを無理やり「清潔」に当てたのだろう。

それはそれとして、5Sを見るときいつも気になるのは最後の「躾」という言葉だ。
躾というのはペットをはじめとする動物の調教や訓練に使う言葉なのではないか? 人間に対して使うのは子どもに生活習慣や礼儀作法を身に付けさせるときに限られるはずだ。
大の大人を相手に躾をするというのはあまりにも傲慢ではないだろうか。

この日本語教育センターを批判しているわけではない。どこの技能実習生研修施設でも、そしてどこの日系企業の工場でも同じことが行われている。

約300人がこの敷地内で寮生活を送っている。3~5カ月日本語を勉強したのち、技能実習生として彼らは日本に渡る。
時間割表を見ると、朝5時半から夜23時まで予定がびっしり詰まっている。授業は1日6コマ(1コマ約1時間)で、そのうち5コマが日本語のクラス。それ以外は日本の文化や生活を教えるクラスだ。

自動販売機の写真
ベトナムではまだ数少ない自動販売

日本語のクラスで話をしてくださいと言われ、彼らの前に立つ。
ひとクラスは15人程度。
何か質問をということで、彼らの出身地を尋ねた。
ハイズーン省、フンイエン省フート省などの北部出身者が大半で、ゲアン省など中部出身者が少しいる。

今度は反対に彼らの方からの質問を受ける。
ベトナムの交通についてどう思いますか?」
ああ、これは「バイクが多くて驚いた」「道を渡るのが怖い」という答えを期待しているのだろうなあ。
しかし、ベトナムに来たばかりの外国人ならともかく、10年以上ベトナムに住んでいた私には今さらそんな答えをすることはできない。

「バイクを運転中、赤信号だったので交差点の先頭で信号待ちをしていました。交差する道路のバイクが途切れると、まだ赤信号なのに後ろに並んでいたバイクが私のバイクを追い越して信号無視して交差点を渡っていきました。それだけでなく、追い越しざまに私を罵っていく人もいました」
と話した。けれど、日本語の勉強を始めて数カ月の彼らには理解できないようだ。そこでベトナム語で説明したのだが、考えてみれば日本語の授業ではないか。生徒も先生も日本人と日本語で会話することを期待していたというのに、バカなことをしてしまった。後で反省する。

(つづく)

※写真はいずれも送り出し機関とは無関係です。